「昔はこんなに暑くなかった」から考える、これからの生活介護と放課後等デイサービスの役割

はじめに

「10年前はこんなに暑くなかったのに…」
誰もが一度はそう口にしたことがあるのではないでしょうか。実際、私たちの記憶にある夏は、せいぜい30℃前後で、夜になれば風が涼しく感じられるような気候でした。しかし近年、最高気温が35℃を超える日が続き、場所によっては40℃近くになることも珍しくありません。

このような「異常」が、今や「日常」になりつつあります。気温の上昇は私たちの生活環境そのものを変え、特に高齢者や障がい者の方々にとっては大きな負担や危険をもたらしています。本コラムでは、気温の変化とともに変わってきた生活環境を振り返りながら、障がい者福祉に関わる事業所として、私たちができる支援についてお話ししていきます。


気候変動がもたらした10年の変化

昔は「30℃」で驚いていた

一昔前、30℃を超える日は「今日は暑いなあ」とニュースで取り上げられるレベルでした。ところが今は、35℃を超えても「猛暑日」という言葉にすっかり慣れてしまい、「またか」と受け流してしまうようになっています。これは単なる体感の変化ではなく、気象庁の統計でも実際に10年で平均気温が1〜2℃上昇していることが分かっています。

「エアコンがないと生活できない」時代に

かつては扇風機と風通しの良い窓だけで夏をしのぐことができました。しかし今では、エアコンがなければ命の危険すらある時代です。特に高齢者や障がい者の方は、自分でエアコンの操作ができない、暑さや脱水に気づけないということもあり、熱中症のリスクが格段に高まっています。


高齢者・障がい者にとっての「暑さ」は命にかかわる

体温調節が難しい人たちの現実

高齢になると体温調節機能が低下します。また、障がいのある方の中には、自分の体調変化に気づきにくかったり、暑さをうまく訴えられなかったりするケースも少なくありません。その結果、本人も家族も気づかないうちに熱中症や脱水症状が進行してしまうのです。

夏の事故は「家庭内」で起きている

意外に思われるかもしれませんが、熱中症による死亡や重症化の多くは「屋外」ではなく「屋内」で起きています。エアコンを我慢したり、節電意識から使用を控えたりすることで、室内が高温多湿になり、知らぬ間に命の危険が迫っているということが実際に起きているのです。


事業所が果たせる「気温変化への支援」とは?

私たちは、生活介護や放課後等デイサービスを通じて、多くの利用者さまやご家族と関わらせていただいています。その中で、この気温上昇という社会的変化にどう対応していくかが大きな課題となっています。

① 利用者さまの「気温・体調管理」の強化

施設内のエアコン管理、室温・湿度の定期的なチェック、水分補給の声かけ、体調の観察などを徹底しています。特に夏場は、「いつもと違う様子」に早く気づくことが、命を守る第一歩です。

② ご家庭へのアドバイス・連携

ご家族に向けて、定期的に「ご自宅での熱中症対策」の情報を提供しています。
たとえば:

  • 室温の目安やエアコンの適切な使い方
  • 寝る前・起床時の水分補給
  • 冷房と扇風機の併用で空気を循環させる方法

など、すぐに実践できる内容を中心にお伝えしています。

③ 外出支援と見守りの工夫

夏の外出は控えるべき場合もありますが、どうしても外出が必要な場合は「帽子の着用」「冷却グッズの持参」「こまめな日陰休憩」など、安全な外出のサポートも行っています。また、帰宅後のフォローアップ連絡を行うことで、ご家族とも安心を共有できる体制を整えています。


放課後等デイサービスにおける子どもたちの対応

子どもは大人に比べて体温調節が未発達です。そのため、熱中症や脱水症状へのリスクが高くなります。さらに、発語が苦手なお子さんは「暑い」「具合が悪い」と訴えることが難しいため、周囲の大人の観察が何より重要です。

水分補給の習慣化

私たちの施設では、1時間おきの水分タイムを設け、ゲーム感覚で楽しく水分補給を促すなど、子どもたちが自発的に飲める環境づくりを工夫しています。

室内活動の充実

夏は無理な外遊びを避け、室内で楽しめる制作やクールダウン活動を充実させています。冷感素材の遊具や、ミスト扇風機の導入なども子どもたちに大好評です。


「あの時、伝えていれば…」をなくすために

気温の変化は待ってくれません。
私たちが日々向き合っているのは、まさに「命に関わる暑さ」です。そして、それを防ぐ手段は意外と身近にあります。たとえば、エアコンの温度設定ひとつ、日々の水分補給、声かけのタイミングひとつで、その人の健康が守れる可能性があるのです。

だからこそ、私たちは積極的に「伝える」こと、「関わる」こと、「変えていく」ことに取り組んでいます。事業所だけで完結する支援ではなく、地域や家庭と連携し、利用者さまが安心して毎日を過ごせる環境づくりを進めていきたいと思っています。


まとめ:これからの福祉には「気候対応力」が必要

気候の変化は、福祉サービスの提供のあり方にも大きく影響を与えています。だからこそ、私たちは単に「日中の居場所」や「学習の場」としてだけでなく、「命を守るパートナー」としての責任を持って、日々の支援にあたっています。

ご家族やご本人のちょっとした不安や、「どうしたらいいの?」という声に対して、気軽に相談していただける場所でありたいと心から願っています。

私たちはこれからも、変化する時代に合わせた柔軟で、そして優しさのある支援を提供していきます。

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